信州紬産地めぐり ~飯田紬編~

野瀬 達朗

商品仕入

野瀬達朗

信州紬産地めぐり ~飯田紬編~

いつも京都きもの市場のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

京都きもの市場の商品仕入を担当しております、野瀬でございます。

 

前回のブログでは「信州紬産地めぐり ~伊那紬編~」と題しまして、伊那紬の織元さんをご紹介しました。

今回はその続編として、飯田紬をご紹介します!!!

素晴らしい秋晴れの空の下、車を走らせ訪れたのは、現在飯田紬を生産する唯一の工房である、廣瀬草木染織工芸さんです。

雄大な南アルプスを望む自然豊かな飯田市では、かつては30軒以上の工房が飯田紬生産業を盛り上げていたそうです。

そんな飯田紬の一番の特徴は、なんといっても山野に自生する植物を用いた草木染のやさしい色合いと素朴な風合いです。

飯田紬の中でも、柔らかい味わいのある格子柄は「飯田格子」と親しまれ、特に人気の高い柄となっています。

廣瀬草木染織工芸さんでは、素朴で丁寧な手織りにこだわり、様々な織り方で織物を手掛けておられます。

今回、私が皆様に特にご紹介したいのは、熟練の職人さんが意匠を凝らして織り上げる「手織りの中の手織」です!!

一般的に、機織りでは経糸(たていと)はしっかりピンと張った状態で、緯糸(よこいと)をパンパンと押し込むように打ち込み、織り上げていきます。

しかし、こちらの工房は、真綿本来の柔らかい風合いを活かすことにこだわっており、経糸は極限までたゆませ、緯糸を筬(おさ)でねじ込むように何度も何度も打ち込んでいきます。

緯糸を筬でねじ込む作業は、弱すぎても強すぎても上手くいかず、長年の経験で裏打ちされた適度な力で行わなければなりません。

このひと手間を惜しまないことにより、他の織物のピシッとした織とは逆で、絹の豊かな凹凸感を生かして、優しさと空気を織り込んだ本当に柔らかい質感に仕上がります。

こちら(↓)では、経糸にも緯糸にも手紡ぎ糸が使われており、糸は草木で染めておられます!この糸の表情が素晴らしいです。

このこだわりの技法で手間暇かけて手織りされる作品には、ご主人自ら作成される「手織りの中の手織」の証紙が付されて、お客様の手もとに届きます。

ご主人の微に入り細を穿つものづくりには、職人のプライドとこだわりの強さだけでなく、お客様に最高の品質で飯田紬をお届けしたいという熱い想いも伝わってくるようです…!

廣瀬ご夫婦は仲良く、それでいて切磋琢磨し合いながら、良きライバルとして、日々機織りをされているそうです、本当に素敵なご夫婦ですね!

ご想像のとおり、一反を織り上げるには、一般的な機織りの数倍の時間と労力を要するため、職人さんが廣瀬ご夫婦含め数名だけのこの工房では、月に何十反も織り上げることができず、生産数に限りがあります。

そんな中で、利益度外視の破格のお値段でこの「手織りの中の手織」をつづけておられるのですが、後継の息子さんには苦労をさせないよう、この技法を継承する気はない…とおっしゃっていました。(2021年10月18日現在)

もしかしたら、この「手織りの中の手織」の飯田紬は、当代かぎりとなってしまうかもしれませんね…!

今回お伺いした際に、ご主人が大変貴重なものを見せてくださいました。

なんと…数十年前のインドご訪問時に買い付けされた、上質なゴールデンムガの糸です!!!

絹の原料となる繭をつくる蚕は、いわゆる養殖の「家蚕(かさん)」と、天然の「野蚕(やさん)」に大きく分けられます。

その野蚕糸(やさんし)の最高峰といわれているのが、インド・アッサム地方だけでしか採れないゴールデンムガなのです。

糸が放つ高級感たっぷりの光沢と黄金の色彩は、人工的に手を加えられたものではない自然素材です!

人工的に繁殖させることが出来ない種で、年間採集量も僅少であるため、希少価値が高く世界中で重宝されています。

今回は、ご主人にその貴重な糸を使って何か商品開発ができないか、清水の舞台から飛び降りる覚悟でお願いしてみました…!

…さて…結果やいかに?!

進展がございましたら、こちらのブログでお知らせいたします!乞うご期待!

 

いつもお世話になっている廣瀬草木染織工芸の代表 廣瀬收宏さんと奥様の澄子さん、今回も長時間笑顔でお迎えいただきありがとうございました!

 

皆様、今回も最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

次回は、信州紬産地めぐりの最終編となりまして、上田紬をご紹介いたします。

秋冷の候、体調を崩さぬよう、どうぞご自愛くださいませ。

京都きもの市場
野瀬達朗

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