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京都店の佐野でございます。
暦のうえでは冬となりましたが、連日おどろくほど穏やかで清々しい秋晴れが続いていますね。皆様はどんなところにお出掛けして、秋を満喫されていますでしょうか?
さて、今回は大好評をいただいております「今さら聞けない!」シリーズの第二弾をお送りします!
「今さら聞けない!」シリーズは、お客様からいただいた「着物の基本中の基本で迷うことがたまにあって、今さら聞けないけど、聞けないからこそしっかり頭に入れておきたい」というお声をもとに、僭越ながらわたくしめがブログで豆知識をまとめております!
これまでに何度かお客様からいただいたご質問を、兼好法師よろしく、そこはかとなく書き留めましたので、お暇なときに是非ご覧くださいませ。(前回分をご覧になっていない方はこちらから)
御召とは?
お客様から、たまにいただくご質問に「御召って何ですか?どんなときに着るのですか?」というものがございます。皆様はご存じですか?
そもそも御召(おめし)とは、御召縮緬(おめしちりめん)の略称で、精巧な縮緬にもう一段階工程を加えて緻密に織り上げた絹織物のことを指します。
織りの着物の中でも最高級と名高い御召は、軽くしなやかなだけでなく、上質な光沢と漂う風格が着物愛好家に根強い人気を博しています。
もともと「御召」という名称は、着崩れしにくくシャリ感のある上質な風合いが武家や貴族を中心に人気が出て、特に江戸時代の第11代将軍 徳川家斉公が好んで着るようになったため「将軍様の御召物」として広く認知されたことが由来だそうです。
御召が織りの最高級とされる理由は、通常の縮緬は生糸を織り上げてから白く精練するのですが、御召の場合は先に生糸を精練し、先染めしてから織り上げます。つまり、文様をつくり出すには、織りの段階で文様を描くための色糸を何色も用いて、緻密な計画のもと織りあげていくのです。
そのため、御召の柄物は、織り上がった反物に色を付けて描かれた柄物と比べて、織り生地の凹凸による微妙な陰影の奥行きが感じられるので、遠目でも立体感とあたたかみが見てとれます。
このような職人の手間暇がかかった「先練り先染め」の製法が、御召を織りの最高級たらしめる所以です。
当店で取り扱っている御召には西陣御召が多くございます。西陣御召の場合は、こちら(↑)のような証紙が添付されており、証紙には各機屋の名前が記載されています。
これは、西陣御召を製織する多彩な織物メーカーが産地の発展と、伝統と歴史ある西陣御召の振興に寄与するために設立された「西陣きもの組合」が発行している正式な証紙です。
西陣御召は、御召機(おめしばた)という専用の織機を用いて、よこ糸を何色も切り替えて入れながら複雑な文様を凹凸で織り上げるのが特徴で、この製法が西陣御召の独特の高級感と表現力を生み出す理由の一つです。
古くから西陣の着物地を守り続けてきた五十軒余りの機屋の「御召機」で織られているため、この証紙は「御召機の証」と称され、品質の保証と誇りが込められています。
さて、御召が何か分かったところで、御召はどんなときに、どんな場所へ、どのように着るのが正解でしょうか?
一般的に、和装には着物から小物に至るまで「格」というものがあり、この格によってTPOに合った装いをすることが着物を着る上でのしきたりとなっています。
しかし!このしきたりにおいて、例外中の例外となるのがこの御召なのです!!
実は、御召は大島紬や結城紬と同様に先染めの織りの着物にも関わらず、結婚式や茶席においても第一級の礼装として着用を許されているのです!ご存じでしたか?
ただし御召の中にも着用にルールはございます。どんな御召でも礼装として着用できるわけではございません。
男性の場合は、無地に紋を入れることで茶席やフォーマルな場での礼装として着用可能です。
女性用の御召の場合は、無地・縞・格子・とび柄・小紋柄・絣柄などバラエティ豊かなので、柄ゆきによってTPOが決まりますが、無地に紋を入れて袋帯を合わせることで茶席やフォーマルな場での礼装として着用可能になります。
無地以外の御召も普段着としてだけでなく、小紋と紬の中間のオシャレ着として、観劇や食事会、ご挨拶など改まった席だけでなくお稽古やショッピングなどの幅広いお出掛けシーンで活躍します。特に、御召は裾さばきや袖さばきがとても良いので、お茶やお花の稽古場でも大変好まれます。
御召を着用するには、シーンに合わせて適切な帯を合わせることが肝要です。お着物の初心者の方には、なんとなく取り入れるのに勇気がいるようにも感じますが、幅広く着用できるからこそ初心者向きでもあるのです!
なぜ「おはしょり」をつくるのか?
皆様はお着物を着るときに「おはしょり」をわざわざつくることに疑問をもったことはございませんか?
初心者の頃はおはしょりをキレイにつくれなくて着付けにもたついてしまったりして、忌々しい存在に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
どうせ反物から自分のサイズに合わせて仕立てるのだから、男物のようにおはしょりが出ないように正に一寸違わずピッタリに仕立てれば良いのになぁと、その昔は思ったこともありました。
実はこのおはしょり、着物の歴史から見るととっても歴史の浅い新参者なのです!ご存じでしたか?
着物は古くから日本人が身に着けて来た衣服ということは広く知られていますが、実は江戸時代初期まではおはしょりはなく、対丈(ついたけ)で細い帯を締めていました。
対丈とは、着物の丈が着丈と同じ長さで、おはしょりをしない着物のことです。男物や長襦袢、旅館の浴衣などが対丈にあたります。
<出典:風俗博物館運営 公式ホームページ 日本服飾史 資料>
将軍家に仕える大奥の正室や子女など身分の高い女性は、丈の長い着物を裾を引きずって着るお引きずり姿でしたが、長い着物をそのまま着ていたというだけで、おはしょりはありませんでした。
毎日働いたり、家事をこなさなければならない一般庶民の女性は、裾が長いと不便なので、対丈だったと考えられています。
しかし、江戸時代中期になると身分の高い女性を真似てか、おしゃれのためか、屋内ではお引きずりにし、屋外では裾を引きあげて紐でしばって外出する一般庶民が増えたようです。
明治時代初期もまだお引きずりが一般的でしたが、明治維新後に女性の社会進出が進むと、活動的に動く女性がより一層増えたため、着物の長さを動きやすいように調整するようになりました。ここで初めて「おはしょり」が生まれたのです!
このような時代と文化の変遷の中で生まれたおはしょりですが、いまだに存在するのには合理的な理由があります。
おはしょりの役割には諸説あるものの、やはり一番は体型の変化に対応したりどのように着付けたいかを自由に表現するためではないでしょうか。
そもそも着物は、立体的につくられる洋服と違って、直線裁断で作られる平面的デザインの衣服なので、個々人の体型に合わせて「着付ける」というステップを踏んで、初めて完成された衣服となります。
胸やお尻の大きさも個々人によって違うので、江戸時代初期の対丈では正面と背面のいずれかの丈が短くなったり長くなったりすることもあります。それらをおはしょりで調整することによって、パシッとキレイな着姿にできるのです。
つまり、おはしょりは個々人の体型に合わせて、胴回りのシワを隠して、着物をフラットに美しく着付けるための調整に使う、いわば着付けに必要不可欠な存在なのです。
もちろん、成長に合わせて仕立て直しをしなくても着ることが出来る、何世代にもわたって長く着ることができるというメリットもあります。
江戸中期から明治にかけて行われた着付けの工夫は単なるオシャレの範疇で語ることはできず、より動きやすく、より暮らしやすく過ごすためには、不可避の機能的進化だったのでしょうね!
いかがでしたでしょうか?今回も、皆様にとって有用な情報はございましたでしょうか?長くなってまいりましたので、今回はこのへんで失礼いたします。
また次回の更新をお楽しみに。めっきり寒くなってまいりましたので、皆様ご体調にはくれぐれもお気をつけてお過ごしくださいませ。

実店舗「京都店」 佐野巨明

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この記事を書いた人

実店舗「京都店」
佐野巨明
【京都店主任】 出張族から一転し、実店舗へ赴任しました!出張手当はもらえなくなったけど、今日も元気に着物という広大な宇宙を旅します。