いつも京都きもの市場のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
京都店の佐野でございます。
ずいぶんご無沙汰しておりますが、皆様お変わりなくお過ごしでしたでしょうか?
わたくしはめっきり秋めいてきた毎日に心躍らせながら、最近衣替えを済ませました!夏から秋の衣替えってワクワクしませんか?皆様はどうですか?
さて、わたくしのブログを日頃から読んでくださっているお客様には、まだ記憶に新しいことかと思いますが、過去の記事にて「知っておきたい!四季を感じる着物の季節柄~草花編~」と題しまして、お着物に描かれる草花柄とその着用シーズンをご紹介しました。
大変光栄なことに、こちらの記事についてお客様からご好評をいただいておりましたので、今回は「知っておきたい!縁起のいい着物の吉祥文様」と題しまして、おめでたい席で着用するお着物の柄をまとめてみました!
すでにご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、春ほどではないものの、秋もおめでたい席が多くなるシーズンですので、是非今一度いっしょにおさらいしてみましょう!!
吉祥文様とは?
吉祥文様(きっしょうもんよう)とは、繁栄や長寿といった”めでたいしるし”を表現した縁起が良いとされる文様の総称で、古くからお祝いの席で好まれてきました。
お祝いの他にも、お守りや厄除けの意味もあり、その種類は数十種類にものぼります。着物だけでなく様々なお祝いの品、日用品、工芸品などにもあしらわれてきました。
最初は中国から伝わってきたため、龍や鳳凰、松竹梅、四君子など中国の文化が色濃く残っていたのですが、平安時代に遣唐使が廃止されたことに伴い、橘や藤、扇に熨斗などの日本独自の図案が貴族の間で定着していったそうです。
その後、時代の変遷とともに武家や庶民の間でも定着していき、更に多様な図柄が発案されて現代まで日本の文化として受け継がれてきました。
せっかくですので、今回は中国から伝わり現在も日本で愛され続ける大陸由来の吉祥文様と、日本で独自に発案され定番化していった日本の吉祥文様という視点で、いくつかの吉祥文様をご紹介したいと思います。
中国由来の代表的な吉祥文様
まずは、吉祥文様を語る上で欠かせない、ベースとなった大陸発祥の代表的な文様ですね。中でも、現代の日本で今なお愛され続けている定番の文様をご紹介いたします。
松竹梅
松竹梅は、松・竹・梅の縁起の良い文様を組み合わせた吉祥文様で、松は”神が宿る木”とも呼ばれ、一年中枯れることなく緑色の常緑樹であることから不老長寿、竹は成長が早く、まっすぐに伸びて丈夫なことから成長祈願を表しています。
梅には、寒い中でも花を咲かせることから女性の強さを表すそうですが、同時に、冬の間つぼみの状態で寒さに耐えて、春一番に花を咲かせることから辛い時期を耐え忍び努力を続ければ、いつか美しい花が咲き誇るという意味もあるそうです。
松竹梅は、成人式に着用する振袖に多く描かれる文様の一つですが、これには成人した後も長く素晴らしい人生が歩めるようにという願いがこもっているのですね。
四君子(しくんし)
四君子は、梅・菊・蘭・竹の4種の植物が揃った吉祥文様です。
※それぞれが別々に描かれたお着物・帯・小物などを合わせて4種を揃えた場合は、四君子と呼ばないのでご注意ください。
君子とは、古代の中国で徳が高い人格者で、清らかで高潔な優れた人のことで、梅・菊・蘭・竹のそれぞれが君子を思わせる佇まいと風格を持つことから、四君子という柄として好まれるようになったそうです。
中国から日本に伝わり、江戸時代には文人が好んだことで様々な物の絵柄に使われるようになり、現代でも普段のおでかけからお茶席など幅広く活躍する定番の吉祥文様となりました。
万人に愛されるもう一つの理由として、4種が春夏秋冬それぞれの季節を象徴することから、オールシーズン着用可能な点も忘れてはいけないですね。
亀甲(きっこう)
亀甲は、亀の甲羅を模した正六角形を並べた格式の高い動物の吉祥文様で、平安時代には貴族の衣装に用いられ、当時は庶民が着用することはおろか、見ることすら許されていませんでした。
「鶴は千年、亀は万年」と言われるように亀は長寿を象徴しており、おめでたい文様として日本でも長く愛されてきました。
亀甲繋ぎ(きっこうつなぎ)、亀甲花菱(きっこうはなびし)、毘沙門亀甲(びしゃもんきっこう)など、基本の亀甲文様から派生して何種類かの亀甲文様が存在します。
七宝(しっぽう)
七宝は、円を斜め四方に重ねて輪をつないでいった吉祥文様で、仏教用語で金・銀・水晶・瑠璃・瑪瑙(めのう)・珊瑚・しゃこの七つの宝を指し、裕福さや高貴さの象徴とされています。
輪は「和」に繋がり、それがどこまでも永遠に続くことから円満や繁栄やご縁といった意味が込められており、お祝いの席にふさわしく、打掛に非常に多く見られ、家紋や屏風の裏紙などにもよく用いられています。
日本独自の代表的な吉祥文様
つづいて、日本人として忘れてはならない、日本で発案された日本独自の吉祥文様の中でも代表的なものをいくつかご紹介したいと思います。
熨斗(のし)
熨斗は、もとは鮑の肉を薄くはいで引き伸ばして乾燥させた「のしあわび」のことで、身が長くのびることから長寿を象徴するものとして神社のお供え物や贈答品に使われました。
お着物に描かれる熨斗は、現代の日本で一般的に連想するようなお祝いの時に添えられる飾りではなく、のしあわびを和紙に包んだ贈り物を「熨斗」と称して贈る習慣が定着した頃に、この熨斗をモチーフにして、細長い帯状のものが吉祥文様として図案化され、江戸時代頃から広く使用されるようになったそうです。
貝合わせ・貝桶
貝合わせは、平安時代から伝わる貴族の遊びで、左右一対の貝殻に絵柄を描いたあとに、左右をバラバラにし、出された片方の貝殻の対となる貝殻をさがすもので、他の貝とはぴったり合わない二枚貝の特徴から男女の永遠の契りを象徴するとされ、明治維新までは女性の貞節を表す嫁入り道具の一つでした。
貝桶は、この貝合わせに使われる貝を入れる美しい蓋付きの桶のことで、こちらも貝と一緒に嫁入り道具として使用されていました。
このような背景から夫婦円満の願いを込めた文様としてお着物などに描かれるようになり、現代まで婚礼の場で愛されつづけてきた縁起のいい吉祥文様です。
矢絣(やがすり)
矢絣は、矢羽根をモチーフとした吉祥文様で、現代では卒業式の袴に合わせる着物として広く着用されている文様ですね。
弓矢は武士にとって大切な武器であることから、強さを表したり武運を祈ったりして、武士に広く愛されてきました。
一度放った矢は戻らないことから、江戸時代には「出戻らない」という意味を込めて縁起のいい嫁入り道具として矢絣の着物を持たせる風習が生まれ、明治時代になると袴が女学生の制服となり、大正時代にかけて数多くの女学生が矢絣の着物を袴に合わせ着用したことで、学生服の定番となったそうです。
また、弓矢は武具としてだけではなく神事にも用いられてきました。お正月の初詣でいただく破魔矢は、読んで字のごとく、災いなどの魔を破ると書いて自分の身に降りかかる災いである魔を破り、幸せに暮らせますようにという意味が込められています。
扇文
扇は、高温多湿の日本で生まれた涼をとるための道具ですが、広げると末が広がっている形状から末広がりの縁起のいい吉祥文様として愛されてきました。
末広がりは運気が良くなる、将来の展望が明るいということを表していて、発展や栄光を象徴するため、花嫁衣装だけでなく、成人式の振袖でも花の柄と組み合わせて「花扇」として着用することも多い吉祥文様です。
また、扇で仰ぐ(あおぐ)というのは「あおり立ててさとす」ことを意味し、神霊を呼び起こして、物の霊を揺り動かす力を備えた道具ともされました。
このように、福を招いたり、邪悪を避ける扇は、神楽や能楽、田楽などの芸能に欠かせないものとなり、扇による所作は現代にも伝えられています。
扇は、開いたり閉じたり、半開きにしたりと、多彩な形で描かれており、扇面や扇子文とも呼ばれます。
左右に長い紐の付いた華麗な扇の図柄もあり、これは扇の起源となった平安時代の貴族(女性)が顔を隠すのに使用した檜扇(ひおうぎ)というもう装身具を描いたもので、檜扇文(ひおうぎもん)と呼ばれます。
他にも、扇に張る紙の部分である地紙のみの扇を描いた地紙文(じがみもん)と呼ばれる文様もあり、骨のない紙だけの美しい形は、古くから能装束や小袖に使われてきました。地紙の中に更に草花など文様を入れて、めでたい文様として用いられます。
最後に
いかがでしたでしょうか?新しい発見はございましたでしょうか?
わたくし自身、今回改めて込められた意味や歴史を調べて文字におこしてみたことで、大変勉強になりました!
毎回思うことで、これも何度も呟いており「耳タコですよ!」というお声が聞こえてきそうですが・・・日本の伝統文化って本当に素晴らしいなぁ~尊いなぁ~と、改めて痛感いたしました。
ほとんどすべての吉祥文様にとても深い歴史と意味が存在していて、それを辿っていくことで、何百年、何千年も前に生きていた日本人の生活や考え方を紐解いているような、そんな不思議な気持ちになりました。(まるでタイムトラベル!!というのは言い過ぎでしょうか?笑)
なにはともあれ、お着物を愛していらっしゃる皆様にも、今回のブログの内容を一緒に楽しんでいただけましたら幸いです!
ご存じの通り、吉祥文様は他にもたくさんございますので、今回書ききれなかった文様については第二弾も考えております!
それではまた次回の更新をお楽しみに。一気に気温が下がって寒くなってきましたので、ご体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。

実店舗「京都店」 佐野巨明

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この記事を書いた人

実店舗「京都店」
佐野巨明
【京都店主任】 出張族から一転し、実店舗へ赴任しました!出張手当はもらえなくなったけど、今日も元気に着物という広大な宇宙を旅します。