皆々様方、大変ご無沙汰させて頂いております。
京都店の佐野でございます。
前回のブログ更新より随分と時間が経ってしまい、気がついたら年をまたいでしまいましたが、お変わりなくお過ごしでしたでしょうか。
さて、本日はタイトルの通り、皆様大好きなお着物に描かれる草花柄の着用シーズンについて、自身の備忘もかねてご紹介したいと思います。
日本では、移りゆく季節に合わせて、その時期の草花や景色などの自然の恵みをお着物の柄や色に取り入れて表現されてきました。
いにしえから季節を大切に愛でる日本人の感性が育て上げてきた伝統が籠められていると思うと、お着物は本当に奥深く、味わい深く、衣服のジャンルにとどまらない「日本の文化」そのものなのだなぁと気付かされます。
ただ、季節感が如実に表れるだけに、お花見や紅葉狩りなどで着用するお着物の柄に自信が持てないなど、お着物の柄と季節の組み合わせに迷ってしまうこともありますよね。
すでにご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、春も目前に迫っておりますので、いっしょにおさらいしてみましょう!
草花柄は「先取り」が基本!
まず、お着物は「先取り」が基本!(…というのは、さすがに初級すぎますでしょうか…)
できれば、着用は描かれている草花が「咲ききってしまうまで」と覚えておくのが無難でしょう。
お着物の草花柄は歴史が長いので、旧暦を現在の暦に置き換えると1ヶ月ほどズレがあるように、お着物に描かれた草花柄も、着用のベストシーズンは実際の開花時期より1ヶ月ほどズレがあります。
一説には、開花時期よりも1ヶ月ほど先取りして着用を始め、花が満開になる直前まで着用し、散り際には次の季節の草花柄を取り入れるのが粋だともいわれているそうです。
なんとも奥ゆかしく、いにしえの日本人の感性には脱帽です。
春の草花柄
春の代表的な草花柄は、梅・桜・牡丹・楓・葵などたくさんありますが、わたくしのお気に入りをいくつか詳しく紹介させてください。
※下記にて着用推奨時期をご紹介しておりますが、日本は南北に長く、地域によって季節の訪れにズレがありますし、草花柄の描かれ方によっても着用時期は異なりますので、あくまで参考としてご覧ください。
水仙(スイセン)
▼ 着用推奨時期:1月下旬~2月
▼ 開花時期:1~3月
水仙は、品種によって開花時期にズレがあるものの、基本的には冬から春にかけて咲く花で、厳しい寒さを耐えて花を咲かせることから、延命長寿の縁起物とされています。
木蓮(モクレン)
▼ 着用推奨時期:2月下旬~3月
▼ 開花時期:3~4月
木蓮は春先に咲く、「春を告げる花」といわれています。写実的かつ単独で描かれている場合は、特に春に着るのがオススメです。
藤(フジ)
▼ 着用推奨時期:3月下旬~4月
▼ 開花時期:4~5月
桜の季節が終わった頃から藤の季節が始まります。藤の花が房状に付く姿が稲穂に似ていることから、豊作を願う意味をこめて多く使われてきました。
菖蒲(ショウブ)
▼ 着用推奨時期:4~5月
▼ 開花時期:5~6月
古くは「あやめ」と呼ばれ、芳香と厄除けの植物として知られている菖蒲は、香気があり邪気を払うとされ、端午の節句には菖蒲の葉をお風呂に入れる習慣は現代でも残っていますね。
梅雨の草花柄
日本は梅雨の期間が長いですが、古来から日本人は恵みの雨としてこの季節を大切にしてきました。
俳句や文学作品の中でも雨の表現は多彩で、ときには雨を美しいものとして愛でる感性が、長い歴史の中で育まれたことがよく分かりますね。
梅雨の花の多くは夏の花に分類されますが、今回は日本人の「雨を愛でる感性」を大切にして、一つの季節として梅雨の草花柄をご紹介します。
紫陽花(アジサイ)
▼ 着用推奨時期:5月下旬~6月
▼ 開花時期:6~7月
紫陽花は、日本固有の花で「万葉集」にも詠まれています。ガクアジサイなどは盛夏でも咲いているので、8月中も着用していただけるそうです。
蓮(ハス)
▼ 着用推奨時期:6月~7月上旬
▼ 開花時期:7~8月
蓮は、泥の中でも立ち上がって清らかに咲くことから、仏教と縁のある花なので喪服に用いられることも多いですね。睡蓮と似ていますが、蓮は梅雨の時期、睡蓮は夏に着用するのがオススメです。
ちなみに、紅葉(もみじ)は言わずと知れた代表的な秋の草花柄ですが、若々しい青い葉は初夏を感じさせる植物とされ、6月の着用が好まれるそうです。
どんよりとした天気に気が晴れない方もいらっしゃるかもしれませんが、梅雨に咲く美しい草花が描かれたお着物で、梅雨にしか味わえない風情を楽しんでみてください。
夏の草花柄
夏の代表的な草花柄は、朝顔・向日葵・杜若・つゆ草・竹・笹など、本当に多彩な顔ぶれが揃っている季節ですが、わたくしのお気に入りはこちらです。
百合(ユリ)
▼ 着用推奨時期:6月下旬~7月
▼ 開花時期:6~8月
百合は、室内で飾られた記録の残る日本最初の花で、宴の席で頭に巻いたり、神事にも用いられていました。
沢瀉(オモダカ)
▼ 着用推奨時期:7~8月
▼ 開花時期:8~9月
平安時代頃から文様化されている歴史ある草花で、家紋にも用いられることで有名です。矢じりに似た葉が槍のように見えることから、通称「勝ち草」として縁起をかつぐため、鎌倉時代には武家にも好まれ、鎧などの武具にも描かれたました。
木槿(ムクゲ)
▼ 着用推奨時期:7~8月
▼ 開花時期:7~9月
木槿は、「冬の椿、夏の木槿」と言われるほど代表的な夏の茶花です。1~2日でしぼんでしまう儚い花ですが、枝の下についた蕾から次から次へと花が咲き、夏の間中、庭や茶室を彩ります。
桔梗(キキョウ)
▼ 着用推奨時期:8月初旬~9月中旬
▼ 開花時期:6~9月
秋の花で知られていますが、残暑の厳しい時期に着ることで、一足先に涼しい秋を先取りすることができると言われ、夏のお着物や浴衣によく描かれています。
撫子(ナデシコ)
▼ 着用推奨時期:8月初旬~9月中旬
▼ 開花時期:8~9月
秋の可憐な花として愛される撫子は、着物の柄としては鎌倉時代以降に用いられるようになりました。
桔梗と撫子は「秋の七草」に数えられます。しかし、「秋の七草」だからといって10月まで着用はせず、夏の暑さが残る9月中旬までという意見もあるそうですが、一方で「秋の七草」は秋の盛りに着るという意見もあるそうです。
秋の草花柄
秋といったらやっぱり紅葉(もみじ)!!他にも萩・菊・銀杏なども代表的ですが、わたくしのオススメはこちらです。
竜胆(リンドウ)
▼ 着用推奨時期:9~10月
▼ 開花時期:9~11月
竜胆は、他の花が枯れた後も美しく咲き続けるため、平安時代から愛され、「源氏物語」や「枕草子」にも取り入れられてきました。
山茶花(サザンカ)
▼ 着用推奨時期:10~11月
▼ 開花時期:10~12月
山茶花は、寒椿から作られた品種で、一見すると椿にソックリですが、椿のように花ごと落ちず、花びらを散らすのが特徴です。椿を「首が落ちる」といって嫌う方もいらっしゃいますが、「山茶花ならOK」という方も多いですね。
冬の草花柄
冬に咲く花はあまりイメージが沸かないように思えますが、実は松・竹・南天・菊など意外にも多彩です。わたくしのお気に入りはこちらです。
椿(ツバキ)
▼ 着用推奨時期:11~2月
▼ 開花時期:12~4月
椿は、日本原産で、冬になっても葉を落とさないので、霊力を持つ木として神事に用いられ、厄除けとしても使われていたり、古くから縁起の良い木として人々に愛されてきました。
写実的かつ単独で描かれている場合は、1〜2月の冬に着用するのが特にオススメですが、写実的では無く総柄で描かれている場合は通年着用できます。
福寿草(フクジュソウ)
▼ 着用推奨時期:12~1月/正月
▼ 開花時期:2~3月
福寿草は、旧暦の正月頃(現代では2月)に咲くことから新年を祝う花としておめでたい名前がつきました。現在、正月用の花として売られている福寿草は、実はハウス栽培されたものだそうです。「難を転じて福となす」にちなんで、南天とともに描かれることが多いです。
蘭(ラン)
▼ 着用推奨時期:1~2月/正月
▼ 開花時期:1~5月
蘭は、四君子の一つに数えられるおめでたい花です。中国から伝わり、「善人は蘭の如し」王者の香りありといわれ尊ばれました。
橘(タチバナ)
▼ 着用推奨時期:1~2月/正月
▼ 開花時期:5~7月
橘は、不思議な力を持っており「常世の国(とこよのくに)=不老不死の理想郷」に生える木という信仰があるため、長寿を象徴する縁起のよい木です。おめでたい柄ですので、果実も描かれている場合は通年着用できるそうです。
最後に
いかがでしたでしょうか?新しい発見はございましたでしょうか?全てすでにご存じでしたでしょうか?
通年でご着用いただける草木柄もございますし、柄の描き方や組合せによっても着用シーズンが変わってきます。
ですので、一概にこちらでご紹介した通りとは言い切れませんが、季節のお着物を選ぶ際に是非ご参考になさってください。
それではまた次回の更新をお楽しみに。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

実店舗「京都店」 佐野巨明

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この記事を書いた人

実店舗「京都店」
佐野巨明
【京都店主任】 出張族から一転し、実店舗へ赴任しました!出張手当はもらえなくなったけど、今日も元気に着物という広大な宇宙を旅します。